写真を撮っていると、その時々で夢中になる被写体があります。
私にとって、それが野生動物でした。
2020年から約5年間、休日になると北海道各地を車で走り、キタキツネを探して撮影する日々を送っていました。
もちろんエゾシカや野鳥、エゾリスなどを撮影することもありましたが、私が最も夢中になっていたのはキタキツネです。
一時は600mm F4やα1を購入するほど、本気で野生動物撮影に向き合っていた時期もありました。
ですが現在、その頃のように野生動物を撮ることはほとんどありません。
野生動物が嫌いになったわけではありません。
写真が嫌いになったわけでもありません。
ただ、写真との向き合い方が少しずつ変わっていったのです。
今回は、その経緯について書いてみようと思います。
野生動物撮影との出会い
私が野生動物に興味を持ったのは、2020年の初め頃でした。
ただ、野生動物への興味自体はそれ以前からありました。
当時は北海道の各地をドライブするのが趣味で、道の駅巡りにも夢中になっていました。一時期は北海道にある道の駅を全駅制覇したこともあります。
ドライブをしていると、キタキツネやエゾシカ、オジロワシをはじめとした野鳥など、北海道ならではの野生動物に出会う機会が何度もありました。
そのたびに、「この瞬間をもっときれいに写真に残せたらいいのに」と思っていたことを今でも覚えています。
そんな頃、SONYのFE 200-600mm F5.6-6.3 G OSSをレンタルする機会がありました。
レンタル期間は数日だけだったため、限られた時間でレンズの性能をしっかり試せる場所へ行きたいと考えました。
そこで向かったのが旭山動物園です。
野生動物ではありませんが、さまざまな動物を撮影できるため、望遠レンズを試すには最適な場所だと思ったからです。
それが2020年2月頃のことでした。
今振り返ると、新型コロナウイルスによる外出自粛や施設の休業が全国へ広がる、まさに直前のタイミングだったように思います。
その後、世の中はコロナ禍へと入り、生活は大きく変わりました。
そんなある日、テレビで動物写真家の井上浩輝さんを知ります。
以前から野生動物には興味がありましたが、井上さんの作品を見た瞬間、
「自分もこんな写真を撮ってみたい。」
そう強く思いました。
それから200-600mm Gを購入するまで、それほど時間はかかりませんでした。
人生で初めて使う600mmという焦点距離。
ファインダー越しに見える世界は、それまで使っていたレンズとはまったく違いました。
以前から興味のあった野生動物撮影が、この頃から私にとって本格的な趣味になっていきました。
野生動物撮影は思っていた以上に難しかった
最初に撮影していた被写体は、キタキツネやエゾリスが中心でした。
もちろん野生動物との適切な距離など分かりません。
かなり離れた場所から慎重に撮影していたことを覚えています。
野生動物撮影では、
「シャッタースピードは1/1000秒を目安にする」
と言われることがよくあります。
私もその言葉を信じ、できるだけ1/1000秒で撮影するよう心掛けていました。
しかし200-600mm Gは、600mmでは開放F値がF6.3です。
北海道の森の中では決して明るいレンズとは言えません。
1/1000秒を維持しようとすると、ISO感度はかなり高くなります。
当時の私はISOを上げることに強い抵抗がありました。
現在ほどノイズ処理ソフトが進化しておらず、高感度撮影では画質が大きく低下すると考えていたからです。
だから私はシャッタースピードを落として撮影することが増えました。
すると今度は被写体ブレが目立つようになります。
そこで私が選んだ方法は、
撮影時はあえて暗く撮り、Lightroomで明るく持ち上げること。
いわゆるアンダーで撮影する方法でした。
撮って出しでは真っ暗に見える写真でも、RAW現像なら十分復元できます。
当時使っていたα7Ⅲは14bit RAWだったため、暗部の復元性能は非常に優秀でした。
この時はまだ知りませんでした。
この14bitという仕様が、後に私の機材選びへ大きく影響することになるとは。
AF性能を求めてα9を購入
半年ほど撮影を続けると、今度はAF性能に限界を感じるようになりました。
そこで導入したのがSONY α9です。
ちょうどα9 IIが発売された時期だったこともあり、初代α9は比較的手が届きやすい価格になっていました。
実際に使ってみると、その性能には驚きました。
AF精度はα7Ⅲとは別次元。
連写性能も秒間10コマから20コマへ。
野生動物撮影には理想的なカメラでした。
しかし、思わぬ落とし穴もありました。
私は暗めに撮影して現像で持ち上げる撮影スタイルです。
ところがα9は連写時、RAWが12bitになる仕様でした。
暗部を大きく持ち上げると、色の階調が崩れやすくなります。
AF性能は圧倒的。
でも、自分の撮影スタイルとの相性はα7Ⅲの方が良かった場面もありました。
ここで私は、
「RAWのbit数は思っていた以上に重要なんだ」
ということを実感しました。
そして憧れだった600mm F4へ
撮影を続けていると、誰もが一度は憧れるレンズがあります。
600mm F4。
いわゆる「ロクヨン」です。
その頃発表されたのがSONY α1でした。
高画素。
高速連写。
優れたAF性能。
動画性能。
それまでSONYが展開していた無印、R、S、α9シリーズ、それぞれの魅力を一台へ詰め込んだようなカメラでした。
スペックを見た瞬間、
「こんなカメラが欲しかった。」
そう思いました。
そして、
「ロクヨンを使うなら、α1も必要だ。」
そんな今思えばかなり偏った考えに突き動かされます。
冷静になれば、とんでもない金額です。
それでも、その頃の私はそれだけ野生動物撮影に夢中でした。
私の野生動物撮影スタイル
当時、私が一番撮影していたのはキタキツネでした。
撮影方法はとてもシンプルです。
ひたすら車を走らせ、キタキツネを見つけたら車を止め、撮影できる状況であれば撮る。
それを繰り返していました。
そして撮影した場所や目撃した場所は、Googleマップへピンを立てて記録していました。
記録していたのは場所だけではありません。
- 日時
- キタキツネの様子
- 周囲の環境
- 撮影できたかどうか
など、自分なりに情報を残していました。
これを続けていると、地域ごとに出没する時間帯や場所の傾向が少しずつ見えてきます。
さらに面白かったのは、同じ地域でも個体によって行動パターンが違うことでした。
野生動物は毎回違う表情を見せてくれます。
だから何度通っても飽きることはありませんでした。
情報交換ができるようになった一方で…
撮影を続けていると、同じように野生動物を撮影している方たちとも交流するようになりました。
情報交換をしたり、一緒に撮影したりすることもあります。
それ自体はとても楽しい時間でした。
しかし一方で、少しずつ違和感を覚えるようになります。
珍しい野生動物が現れると、SNSやネットですぐに場所が特定され、多くのカメラマンが集まるようになったのです。
当時はコロナ禍ということもあり、写真を趣味にする人が増えていた時期でもありました。
その影響もあったのか、驚くほど多くの人が集まることも珍しくありませんでした。
同じような写真がSNSに並ぶようになった
野生動物を撮り続けていると、不思議なことがあります。
SNSに投稿された写真を見ただけで、
「あ、このキツネはあの場所の個体だ。」
そう分かるようになってきました。
撮影場所が有名になると、そこには多くの人が集まります。
みんな同じ立ち位置から、同じような構図で撮影します。
するとSNSには、少し違うだけの写真が何枚も並ぶようになりました。
もちろん、記録写真としては十分価値があります。
その瞬間を残したという意味では、とても大切な写真です。
ですが私は次第に、
「作品として見たときはどうなんだろう。」
そう考えるようになりました。
この頃から、私の中で写真に対する考え方が少しずつ変わり始めます。
ロクヨンを買ってから変わった価値観
600mm F4を購入した頃には、その気持ちはさらに大きくなっていました。
せっかく最高の機材を手に入れたのだから、もっと撮影に行くはず。
自分でもそう思っていました。
ところが実際には逆でした。
有名な撮影スポットへ行くことが減り、SNSへ写真を投稿することもほとんどなくなりました。
今振り返ると、高価な機材を買ったことが理由だったのかもしれません。
あるいは、野生動物撮影を続ける中で、自分の価値観そのものが変わっていったのかもしれません。
正直、今でもはっきりとは分かりません。
ただ一つ言えるのは、
「他の人と同じ写真を撮ること」よりも、「自分だけの写真を撮ること」の方が楽しい。
そう思うようになっていました。
野生動物撮影をやめたわけではなかった
とはいえ、この頃に野生動物撮影をやめたわけではありません。
有名な撮影スポットへ行かなくなっただけです。
その後も約3年間、自宅から車で1時間ほどの範囲を中心に撮影を続けていました。
人が集まる場所ではなく、自分で探した場所へ行く。
そのスタイルの方が、自分には合っていました。
見つけられない日もあります。
何時間走っても一枚も撮れない日もあります。
それでも、自分で見つけた一匹や親子に出会えた時の喜びは、何度経験しても特別でした。
コロナ禍だからこそ続けられた趣味でもあった
今思えば、野生動物撮影に夢中になれた理由は、写真だけではありません。
当時はコロナ禍でした。
ガソリン代はリッター100円前後。
ビジネスホテルも1泊3,000円ほどで泊まれることが珍しくありませんでした。
撮影へ出かけるコストが、とても安かったのです。
しかしコロナ禍が落ち着くと状況は一変します。
世界情勢の影響もあり、ガソリン代は大きく上昇。
ホテル代も以前とは比べものにならないほど高くなりました。
もちろん、それだけが理由ではありません。
ですが、撮影へ出かける回数が減った要因の一つだったことは間違いありません。
そしてGRⅢに出会う
野生動物との距離が少しずつできてきた頃。
それでも写真を撮ることは好きでした。
むしろ、
「もっと気軽に写真を撮りたい。」
そんな気持ちの方が強くなっていました。
そこで出会ったのが、RICOH GRⅢです。
ポケットへ入る小さなカメラ。
思い立った瞬間に撮れる。
車から降りなくても、重たい機材を背負わなくてもいい。
それまでとは真逆とも言える撮影スタイルでした。
ですが、不思議と写真を撮る楽しさは、野生動物撮影を始めた頃と同じように感じました。
おわりに
野生動物撮影から離れたことで、写真が嫌いになったわけではありません。
むしろ「もっと気軽に写真を撮りたい」という気持ちは以前より強くなっていました。
そんな時に出会ったのが、RICOH GRⅢです。
この小さなカメラが、私の写真との向き合い方をもう一度大きく変えてくれました。
その話は、また別の記事で書こうと思います。







